システム随想 – 〈第 5 回〉 思い込みの悲劇


システム随想

執筆:代表取締役社長 佐藤

〈第 5 回〉 思い込みの悲劇

路線バス事業関連のシステム化では屈指の技術者として自他ともに認める SE の C 君は今、危機的な状況に立たされている。

K バス会社へ納入したちょうど 10 社、 18 セット目の販売実績を持つ ” ダイヤ運行割付システム ” パッケージに致命的欠陥が見つかり運用されていないのである。 K 社からのペナルティも辞さない強いクレームに C 君は頭を抱える毎日である。

” ダイヤ ” は一般的に乗務ダイヤを意味し、複数系統を対象にハンドルを握る運転時間、停留所での乗降時間 ( 折返し待ち時間も含む ) 、途中での休憩時間などから構成され、合計で約 8H ( 時間 ) 程度を目安としている。これは、運転手一人の1日あたりの労働時間と一致する。

” ダイヤ運行割付システム ” はこの数百本あるダイヤに運転手およびバス車両を日々自動的に割り付けるシステムである。

割付にあたっては次のようなバリエーションがあり充分な配慮が必要となる。

  1. 平日、土曜日、休日では運行するダイヤ構成が異なる。正月など特定日のダイヤもある。
    従って日によってどのダイヤを運行するかの選別が必要。
  2. 運転手は週休 2 日を原則とするローテーションで行うが、年休や忌引休暇の取得、病気欠勤もある。
  3. バス車両には、定期点検、故障などで休車がありえる。
  4. 運転士はいつも同じダイヤはいやがる傾向がある。またバス車両にもリフト付、大型 / 小型など種類がありダイヤの走行系統でアサインが規定される。

A 君を中心とした路線バスプロジェクトでは、ソフトウェアシステムの 5 セット目の納入時にシステムの標準化、プラットホーム化を計り、その後は出力帳票 ( 割付表 ) などのユーザカスタマイズ、最適化のみで出荷できるまで完成させた。

豊富な業務知識と経験、納入実績、低価格から業界より高い評価をうけ、また業界紙にもたびたび取り上げられ受注を大きく延ばしている。

さて、 K 社は 1 日約 200 本のダイヤを運行している地方の中規模バス会社である。 C 君の業務知識に裏づけされた雄弁な売込みと実績にシステム導入を決定した。

C 君は K 社以外にも数社の同一システムを営業展開中で多忙なこともあり、 K 社のカスタマイズは部下の D 君を中心に進めさせた。

1.5 ヶ月の短期間で K 社用にアレンジした帳票などのカスタマイズが完成し、操作などのユーザ教育が開始された。

この段階において K 社運行係より、次の点が指摘された。

  1. 原則として 1 つのダイヤには運転手 1 名を割り付けてそのダイヤすべてを担当する。
  2. しかし、運転手のやりくり、労働時間均等などの点により 1 つのダイヤを分割して数名の運転手に割り付けるケースがある ( ダイヤの途中で運転手が交代する ) 。

この b. の点が青天のヘキレキ、今までのバス会社に無かったことであり、当然プラットホームに取り込まれていない。いくら業界が同じでも会社が違うと事情が異なる。 「そんなことは言うまでもない」内容の認識が K 社と SE の C 君とでは合っていなかった。

C 君・・・ せっかく決まっているダイヤを分解して数名の運転手に割り付けるなど信じられない。手間隙が大変だし非効率的である。労働時間均等は年単位で配慮すべきである。何より今まで見てきたバス会社でそんなことをしている会社は一社も無い。そんな事ははじめて聞いた。
K 社・・・ 1 ヶ月ベースの労働時間機会均等は我社の重要な政策である。運行係りの手間隙より運転手のモチベーションの方が重要である。バス業界に精通しているとの売り込みであったがどういうことだ。今までの実績バス会社は無いかもしれないが我社以外にも 4 〜 5 社は分割手法を用いている。

業界に携わる者としてのお互いに当たり前の 「思い込み」が悲劇を生んだケースである。

使えないシステムはシステムでなく、当然このケースでは機能追加に応じ C 君がコスト的に泣いたことは言うまでも無い。



さて、我社も 4 年を経過しいろいろな実務を経験させていただいた。また技術的なオープンコミュニティのリードオフマンも存在する。この e ビジネスシステムの実務経験の豊富さ、高い技術力を売りにシステムフレームワークも完備しつつある。

しかしここまでなら人材さえいればどうにかなる話しである。問題はこれからである。

私たちの考えたフレームワークがどう社会に適応するか、受け入れられるか、成果が出せるか。本当の勝負はまさにこれから・・・である。

少なくともみんな、次の点にはくれぐれも気をつけよう。