電脳春秋 – 〈第 22 回〉 入社試験に簡単な問題を出したつもりだったが


電脳春秋

執筆:H.F

〈第 22 回〉 入社試験に簡単な問題を出したつもりだったが

今までどういうわけか入社試験とか面接というものを受けずに、誘われては仕事をするのを繰り返してきた。約 20 年前にいた会社で入社試験を実施することになり、何と私が問題作成者に選ばれてしまったことがある。入社試験ではどういう問題が出されるのかさえ知らなかったが、自分の会社で必要な技術力とか、基礎知識が分かればよかろうということで、英語、数学、コンピュータの 3 分野の問題を作成することになった。

英語は簡単で、適当な英文マニュアルから抜粋し概要を日本語で書いてもらうことにした。これなら、コンピュータの知識も自然に分かる。コンピュータに関しては、もう何を出題したかさっぱり覚えていない。

数学の方は、大学レベルの数学知識が直接仕事に結びつくわけではないので、高校レベル以下の問題ということで用意した。数問作ったと思うが、今覚えているのは一辺の長さが 1 の正四面体の体積を求める問題だけである。

正四面体とは、正三角形 4 枚が互いに辺でくっついてできる三角錐 ( ピラミッド ) である。ごく普通には、三角錐の体積の求め方に従って底面積を求め、それに高さを掛けて 3 分の 1 にして求める。大部分の応募者は、ちょっと計算が面倒になるこの方法で解くと思っていた。

私がかすかに期待していたのは、エレガントな解き方である。今では、インターネットで、正四面体と体積をキーワードとして検索すれば、エレガントな計算方法が簡単に見つかるので、解き方は簡単に示すだけにとどめておく。詳しい説明はインターネットで探して欲しい。

正四面体は、立方体 ( サイコロ ) の 4 つの角を切り落とした残りの形である。これから求めれば、面倒な計算をしなくても、暗算できるくらい簡単で、中学生向の参考書にも解説がある。

ゴリゴリ計算してパワーで解いてしまうか、エレガント、つまり横着な方法で解いてしまうかを見極めようとしたのだった。実際のプログラム開発も同様で、力任せのプログラムもある。力任せに延々と書いたと思われるプログラムを見ると逃げ出してしまいたくなる私としては、エレガントな考え方をする人がいるかどうか見たかったのである。

入社試験の結果は、 1 人を除いて惨憺たる結果であった。成績の良かった 1 人は、心理学をやっていた大学院生で、数学を忘れてしまったのか、数学の問題だけができていなかったが、この人は無条件で合格にした。この人は受験者の中でコンピュータに最も詳しかった。

その他の受験者は、理工系の学生や大学院生だったが、体積を求められなかった。計算方法はいろいろあるが、一応答を出すか、少々計算を間違っても、何らかの結果が出るかと思っていたのだが、見事に外された。

ところで、当社は現在入社試験は行っていないが、プログラマ志望者に対しては、プログラムを提出してもらっている。そこには、プログラム作成に対する考え方や癖などがしっかり入っていて、判断材料として非常に役立っている。もちろん、あまりに力任せのプログラムを書く人にはお引き取り願っている。