システム随想 – 〈第 3 回〉 キーパーソンは時代が創る


システム随想

執筆:代表取締役社長 佐藤

〈第 3 回〉 キーパーソンは時代が創る

システムインテグレータ D 社の A 君は、営業拠点 20 店舗を数える食品販売 Y 社と付き合いが古く、販売管理システムの構築に長年携わってきた。 Y 社の最初のバッチ処理システムではプログラマとして、現在のオンライン化では SE として基本設計から従事した。また、とくに販売管理システムを運用維持している Y 社の情報システム部の S 部長とは S 氏が主任時代からの付き合いであり、格別にかわいがられている。 A 君としても Y 社のコンピュータシステムを次々と提案・構築し、大きく社に貢献して出世街道を歩く S 部長の姿は敬服するとともに目標でもある。

今年度に入り、 Y 社では店舗増設、販売品目の増加、さらに営業情報の共有化に対応するための第 3 次販売管理システムの構築が経営トップにより打ち出された。情報システム部では早速S部長をメインに検討し、クライアント / サーバーシステムと WEB システムを併用する営業店舗現場主導型のシステム化構想を作りあげた。

今までの実績や Y 社販売業務知識の豊富な点から、 S 部長より D 社へシステム開発が発注された。今までの付き合いから当然のごとくA 君を中心にプロジェクトが編成され A 君は部下数名とともに要件定義及びシステム基本設計のためのヒアリングを開始した。ヒアリングの対象はいままでと同様に Y 社情報システム部の S 部長及びそのスタッフである。役職柄S部長が多忙なこともあり、自然と生き字引的な A 君が中心で仕様がまとめられた。

3 ヶ月後、要求定義書、システム基本設計書を完成し Y 社情報システム部への説明を終えたのを機に、 A 君は開発フェーズ突入を宣言し、まず一部の開発に着手した。

S 部長とは同期であり、いい意味でのライバル関係にある Y 社販売統括部 T 部長は、競合各社の攻勢さらにネット販売ベースの新規参入もあり、販売拡大のためにも第 3 次販売管理システムに大きな期待を寄せていた。

今まで情報システム部の開発システムをそのまま受け入れていた T 部長であったが、今回のシステムに関しては IT 環境が身近になったこともあり大きく関心を覚え事前説明を求めた。その結果、今までとりまとめ、開発に着手していたシステム化構想が根底から覆る要望が提示された。

  1. 従来の競合社、ネット新規参入社のシステムを調査し、より以上とする ( 実状はほとんど調べていない )
  2. 製造メーカ、運輸会社など物流とのネットワーク ( バックヤードの電子データ取引 )
  3. データ入力の効率化、 PDA 活用
  4. 全店舗レベルでの在庫管理と調整
  5. 本社も含めた情報の共有とセキュリティ
  6. 古い PC ( パソコン ) も新 PC も充分な活用とスムーズなデータ移行

S 部長としても情報システム部としての最新技術動向の調査や現場ヒアリングの甘さが否めず、競合他社との差別化の点より Y 社の大勢は T 部長の意向に傾いた。まさに A 君としては寝耳に水、意外な展開にとまどうばかりであった。

さらに悪いことに経験を売るだけの A 君の会社より新たな発想をもつオープン系企業に発注したらどうかの意見まで出る始末である。この点は発注済もあり S 部長がどうにか守ってくれたが身の縮まる思いであった。今まで判っていても他人事とたかをくくっていた激動する世の中がはじめて見えてきた。

結局、 A 君はプロジェクトを一時中断し、全店舗現場のヒアリング、競合社のシステム調査、ネットワーク仕様見直し、電子決済のしくみ習得などすべてを再検討することになった。当然、納期についても 6 ヶ月の延長を申し出たのは言うまでもない。

この事例からシステムに対して次の点が見えてくる。

 1 . IT の進歩はシステムの影響範囲をどんどん現場そして社会へと突き進む

IT の進歩、革新は閉鎖的な企業内システムを競争原理が支配するダイナミックな開放型システムへと変革させる。したがって企業内の特殊な部門としてコンピュータ処理を仕切っていた情報システム部や事務システム部、データ入力室と呼ばれる部門の相対的価値が低下する。この部門の意識転換、社会を見据えての存在価値、方向性のアピールが重要となる。

 2 . 開放型システムの指標は効率化のみならず協調 ( コラボレート ) と差別化

従来のシステムはいかに効率化できるか、合理化が推進できるかがポイントであり成果も見えやすくシステムの要点も把握しやすかった。しかし開放型システムになると単に部門業務の効率化のみならず企業全体及び社会全体からの他システムとの協調連動、いわゆるトータルシステム化が大きなテーマとなる。さらにシステム自身が競争社会に身をさらすこととなり競合者との差別化、システムのオリジナリティが新たな指標として加わる。

ではここでの最大の失敗はなんでしょう。キーパーソンの選定にあります。

今までの実績、経験からそして人間的な付き合いから A 君が情報システム部 S 部長をキーパーソンとして従来通り進めたことが問題になります。もちろん社会的な変化の流れを読み、単なる社内システムをグローバルシステムへ脱皮させねばならぬY社自身のモチベーションの希薄さも問題です。

よく利用者が最大のキーパーソンと言われます。前回のシステムでは情報システム部であり S 部長が、今回は販売統括部の利用がほとんどであり T 部長が該当します。

しかし私としては、特にこれからのシステムは利用者がキーパーソンとは言えないと考えています。現場にいる利用者からニーズの収集、情報の分析は可能です。しかしそれを実現するだけのシステムでは 2 〜 3 歩前進するだけで進化とは呼べません。とても革新的なシステムモデルの構築まで届きません。

従来はユーザ主導、現場ニーズ実現で充分でした。ある面では情報産業自身が黎明期にありそれで手一杯でした。しかしこれからのシステムは社会的影響力の点より進化し大きく成長させねばなりません。来るべき IT 社会、技術進歩、コラボレート、ボーダレス、グローバル化などからあるべき姿の事業モデルをイメージし現場ニーズとマッチさせたシステムづくりが必須です。

その意味では今後のシステムは開発するものというよりインキュベート ( 孵化 ) すること、システムインキュベートソリューションと捉えるべきです。

システムインキュベートソリューションのイニシアティブは情報産業です。そのためには情報産業自身が社会の牽引者たる意識と自己変革が重要となります。

その観点から、今回の事例での最大のキーパーソン選定ミスは自己変革が出来ていない A 君自身であり A 君をリーダにしたシステムインテグレータ D 社となります。 D 社の変革の無さは致命的であり結果として食品販売 Y 社をも道ずれに 「THE END」へと突き進むことになります。

タイムインターメディアのシステムインキュベートソリューションの理念は 「創造的破壊」です。

それは、伝統ある大企業に見られる 1 つの核を維持・拡大していく積み上げ型の事業成長が限界に来ること、ニュービジネス企業 ( IT 業界も含め ) の成功が束の間であること、これらは創造的破壊能力の欠如といえます。タイムインターメディアはどんな企業に対しても現状否定をいとわず破壊と創造、収縮と成長の事業成功サイクルをシステムで実現したいと考えています。

「企業の継続する新しい価値の創造をシステムとともに」タイムインターメディアの願いです。