書評:『人工知能と社会 2025年の未来予想』


2018年 03月 19日

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人工知能と社会
 
2025年の未来予想

監修  AIX(人工知能先端研究センター)

著者  栗原 聡、長井 隆行、小泉 憲裕、内海 彰、坂本 真樹、久野 美和子

発行  平成30年2月15日

サイズ  A5, 235頁  

ISBN  978-4274221811

価格  1,800円(本体)  


最近、とにかく人工知能の本の出版が多い。人工知能とは.jpg
そして、表紙がマンガ、アニメ的になっている場合が多々ある。
こうなったのは、人工知能学会の学会誌の表紙の影響が大きいのではないかと思う。

しかし、表紙が軽い感じだから中身も軽いかというと、そうとは限らない。
どちらかといと、ギャップがあることが多い。
そのきっかけになったのが、人工知能学会から出した『人工知能とは』ではないかと思う。
この本、縦書きの本だったのだが、めちゃくちゃ内容はハードだった。

そして、今回のこの本だが、やはり縦書きである。
イラストがちょこちょこ出てくるのだが、書いている内容は軽くはない。
つまり結構重い内容なのだ。

電気通信大学にはAIを研究している研究者が多数いて、学内にAIX(人工知能先端研究センター)を立ち上げた。
そのメンバーの中の6名で書かれたのが本書である。

テーマは、2025年の人工知能の社会実装の予想を、研究者の立場から書いたものである。
2025年というと、あと7年先。
7年というと、一般社会の常識からいえば、それほど社会は変化しないだろうと考えるだろう。
しかし、人工知能に関して7年は相当な変化があると考えられる。

今の人工知能ブームを第3次人工知能ブームというのだが、約7年前に始まった。
始まった当初は、研究者など一部の限られた人々の間で盛り上がりつつあっただけだが、AlphaGoがプロ棋士を圧倒的な大差で勝ってから社会全体で急激に盛り上がった。
盛り上がるのは良いのだが、最近は過熱し過ぎで、何でも人工知能を使えば解決するみたいな風潮が強い。
実際、そんなことはあるハズもないのだが。

2025年といのは、この春電気通信大学に入学した学生が、学部、修士を終えて就職し、1年経過した時に相当する。
つまり、「これから人工知能をやるぞ!」と思った新入生が、考えておかねばならないこととも言える。

2025年の人工知能と言っても、様々な分野により、どのくらい使われているかはかなり違うはず。
そのため、各章を1名が担当して執筆している。
ロボット、IoT、自然言語、感性、そして汎用人工知能と分かれている。

ロボット、IoTあたりは予想しやすいが、自然言語、感性になるとかなり予想が難しくなる。
そして、汎用人工知能というのが、要するに今シンギュラリティと騒がれている事に直結する分野である。

人工知能に仕事を奪われるか、人工知能によって非常に助けられるのか、人により予想は相当異なる。
まあ、人工知能研究者のほとんどは、人工知能を歓迎する立場にあり、人工知能によって多くの問題が解決する。
とくに、急激な高齢化と労働力不足の日本では、人工知能、ロボットなどが社会にはぜひ必要だと。

人工知能により仕事がなくなるというと、困ると考える人と、誰も働かなくても済む理想の社会がやってくると考える両極端な考えさえある。
さすがに2025年に人工知能に地球が乗っ取られると考えている人はいないようだ。

人工知能研究者が2025年をどう予想しているかについては、ご自身でこの本を読んでみよう。
普通にIT用語が分かれば、十分読める本である。
ただし、字がしっかり詰まっているし、内容も詰まっているので、さらっと読むのは難しい。
でも、時間をかけて読めば、読んだだけの価値はあると思う。
単なる人工知能の概説ではなく、実際に研究開発しているAIの説明もあるので、現状をより正確につかめると思う。