書評:『DNAの98%は謎』


2018年 06月 01日

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DNAの98%は謎
生命の鍵を握る「非コードDNA」とは何か
ブルーバックス B-2034

著者  小林武彦
発行日  2017年10月20日
サイズ   新書, 208頁  
ISBN  978-4-06-502034-0
価格   920円(本体) 
発行所  講談社 

前2回に渡って、脳とニューラルネットについて書いた。
書評:『もうひとつの脳』
今のニューラルネットワークは脳を模倣できていない

前回は脳だったが、今回は遺伝、DNAについて紹介しよう。

1990年に人間のゲノムを全部解読しようというヒトゲノム計画(Human Genome Project)が世界中の協力で始まった。
最初はなかなか解読ペースが上昇しなかったが、ゲノム解読情報を商用化しようとする動きも現れ、その後、解読技術の向上もあり急激に解読ペースが上昇し、2003年に解読作業が終わった。

ゲノムの情報が解読できたことで、治療や新薬の開発に非常に役立つと言われている。
人ゲノムだけでなく、さまざまな生き物のDNAが解読されつつあり、地球上の生命の進化の全体像が徐々に明確になりつつあるようだ。

さて、本書のタイトルによると、DNAの98%は謎とある。
DNAの情報からタンパク質が作られて、その種類は5万種とも10万種とも言われている。
それで、長い長いDNAのどのくらいがタンパク質の生成に関わっているかを調べたら、2%だったと。

遺伝子はDNAの2%の部分に存在し、DNAの残りの98%はタンパク質を作らないことが分かった。
遺伝のことだけ考えれば、2%の部分だけ存在すれば大丈夫なはずだが、そうなっていなかった。
これは、AGTC4種の塩基列の並び情報はほとんどが利用されていないということ。
DNAはゴミだらけであり、無駄だらけであると思われていた。

それが、ゴミと言われているタンパク質の生成に関わらない部分も何か働きがあるのではと研究が進んだ。
それが「ゲノムを支える非コードDNA領域の機能」プロジェクトであり、本書の著者がプロジェクトの代表者で、プロジェクトの成果をわかりやすく説明したのが本書である。

98%は無駄に作られているように見えるが、無駄がほとんどであることで、DNAが放射能から受ける影響を軽減したりすることが分かり、また、高等生物になるほど非コード領域が増えていることが分かった。
どうやら、とても重要な働きをしているらしいのだ。

DNAの非コード領域の働きについての説明は省略するので、本書を読むか、他の書物、ネット情報などを参考に学習されたい。

脳のグリアといい、DNAの非コード領域といい、無用の長物と思われていたものが、とても大切だったことが分かってきたのだ。
よくよく調べると、無駄と思われていたものが非常に大切だった、主要部分だったということはしばしばある。

….ということはAIにも影響するかもという話は次回に書くことにする。